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居合千本斬ギネス記録奪回同行記

十番弟子 北村圭佑  
2007年9月19日
舞台は東京お台場フジテレビ“ザ・ベストハウス123”収録スタジオ。
修心流居合術兵法 修心館 館長 町井勲 居合千本斬りギネス世界記録奪回の記録をここに記します。
行程の詳細は兄弟子の佐藤さんの同行記に詳しいため、私からはこの居合千本斬りという機会がどのようなものであったかを、僭越ながら門弟の視点でご紹介させて頂きたいと思います。
 
まず今回の東京遠征は、町井先生が本番で実際に斬るための巻藁の扱いを、勝手の詳しい門弟に任せたい、という先生たってのご希望により実現したものです。
千本というとてつもない数の巻藁を抵抗なく斬るためには、巻藁の扱い全般に気を配る必要が生じます。中途半端な台への挿し方では巻藁が安定せず、斬り手に非情な無理を強いることとなるため、つまりは経験のない人の巻き方や挿し方で記録に関わってしまってはいけないのです。
 
そのために必要なのが巻藁作成の作業。畳表自体の巻きがしっかりしていないと、台へ挿した際に安定を得ることができません。これも経験のない人の巻きでは、やはり記録に関わってしまいます。ただ単に巻藁を斬るのとは違い、あくまで規定に則って記録を達成するためには、これらの作業が決して軽視できないのです。

山のように積まれた巻藁(後方)
挑戦一週間前のこと。町井先生は、なんとこれを一人でやっておられました。数百本にも及ぶ巻藁の下準備、作成、梱包に至るまで、ご自身の体調をかえりみず、稽古の時間に変えてまでも。いくら記録に関わる重要な作業だとはいえ、挑戦する本人がここまで無理をされていては本番当日の体調に響いてしまう上、このような師の姿を目にして門弟として到底いたたまれるはずもありません。私は可能な限りお手伝いをさせて頂きました。兄弟子の佐藤さんと共に、畳表の巻き方から挿し方まで綿密な打ち合わせのもとに。

先生からは多大な感謝のお言葉をこそ頂きましたが、本来ならば当然、門弟である我々が進んでお手伝いすべきこと。それは門弟としての義務であり、むしろ師の記録がかかっている重要な場面で、巻藁の準備すら当人に任せたままでのうのうとしていられる門弟などどこにいるでしょう。
  

本番に備え内曇まで研磨を終えた先生の愛刀繁久
しかしこのとき上記のような無理がたたり、先生は確実に疲労を重ねておりました。腰や腕、刀を振るのに必要な身体のありとあらゆる箇所を傷めておられたのです。しかも本番に使用する刀の研ぎ(先生は刀の研師でもあります)、手入れにかかった時間が夜通し12時間。まさしく不眠不休の作業。先生はこのことを

「挑戦するときの言い訳にしたくないから」

と秘し隠しにされておりましたが、内心はどれほどの重圧と闘っていたことでしょう。まさに満身創痍での挑戦だったのです。この過酷な状況でも、先生は決して音を上げることなく本番へ向けた稽古、調整を着々と進めていかれました。先生の記録達成へ向けた覚悟が並大抵ではなかったことが、これらのことから窺えると思います。

私が何よりも嬉しく思ったのは、ご自身のこのような状況にも関わらず「記録達成の喜びを門弟達とこそ分かち合いたい」とおっしゃって頂いたこと。この言葉を聞いたとき、私はどんな無理をしても先生の力になりたい、と思ったものです。
  
 
本番当日

巻藁交換の助っ人である龍星剣 青木さん、柔剣雷心会 田中さん、芦村さんと合流し、巻藁交換の手順を入念に確認します。本番直前の張り詰めた空気の中でのリハーサルでしたが、スタジオ内は番組制作に携わるスタッフさんたちの活気あふれる、何とも活き活きとした環境でした。途中、居合千本斬り元ギネス世界記録保持者、龍星剣宗家 猿田先生と合流。柔剣雷心会代表 永野先生も応援に駆けつけて下さり、スタジオ内の緊張感がより一層引き締まります。そんな中でも町井先生は実に上手く自身をコントロールされているようでした。本番さながらの緊張感を保ちながらも、時にはリラックスした表情を見せたりと。
 

外からは見えないガラス?の前でタコライスを食す先生
休憩中のある場面。到着時館内を案内して頂いた際、スタッフの方が

「このガラスは外からは見えません」

とおっしゃっていたことを思い出します。

本当か…?

試しに先生が向かいのエスカレーターの女子高生とおぼしき二人組に手を振ってみるのですが…。二人は何とも怪訝な表情を浮かべながらこちらを指差しているではありませんか!

「見えてるやん!」

いやはや…。本番前の奇妙な一場面でした。
  

登場シーンリハーサル
リハーサルを終え、とうとう番組がスタート。

先生も紋付羽織、袴に着替えられ、緊迫した雰囲気の中出番を待ちます。

メインスタジオ初登場のシーンでは、抜きつけ袈裟からの蜻蛉をご披露。失礼ながら申し上げますと、私はこのシーンが一番緊張しました。先生が「上手くいくかどうか…」としきりに呟いていたことを思い出し、自然と緊張してしまったのです。

しかし、そんな心配などどこ吹く風、返し技を見事にきめた先生は毅然とした面持ちでインタビューに答えておられました。

ただ、この時点で先生がどれ程の疲労を抱えていたのかを知る人はほんの僅かではなかったでしょうか…。
 
  
ついに迎えた本番の時間。先生の表情はこれまで見たこともないほどにこわばり、巻藁を睨みつけるその鋭い視線はまさしく真剣勝負に挑まんとする侍の目つきそのもの。最大限に張り詰めた空気の中、開始を告げる太鼓が鳴り響く。完璧な抜きつけで一刀目を成功させ、始まった長い長い道のり。スタジオ内は、TVを見て伝わってくるものとは比べ物にならないほどの緊迫感。それはもはや言及するまでもない、どんなに孤独で過酷な闘いだったことでしょう。序盤にもかかわらず、苦悶の表情を浮かべながら必死に刀を振り続ける姿、並々ならぬ執念が時に感情となって出る場面…。それらがどれほど過酷な状況であるかを切実に物語っています。
 

収録後の先生の左手
それでも屈することなく刀に力を込め続ける気迫溢れるその姿は、まさに「武士道」を示さんとする先生の執念の現れに他なりません。挑戦前、先生はおっしゃっていました。

「日本で生まれた居合という誇らしい伝統を、日本人である私の手で守ることが本望なんだ」

と。今、先生が相対しているのは、日本武道の誇りをかけた闘い。もはや単なる「記録」の世界を超越した次元、いかに納得のゆく形で、町井勲の「武士道」を示すことができるかどうかという…。

とうに限界のはずの腕からはなお、止むことのない次の一太刀が繰り出される。

そして…
  

記録奪回達成!
「記録達成の喜びを門弟達分かち合いたい」
先生の夢が現実となった瞬間です。
手を休めることなく両断され続けた巻藁はついに千本に達しました。

その記録 36分4秒
※当初は36分10秒と報道されていました。

世界記録を五分以上も更新する快挙。2007年9月19日、ついに日本の侍が世界に名立たる記録を打ち立てました。このとき我々は町井先生の闘いの中から、単なる記録に留まらない、まさに日本武道の誇りを垣間見たのです。
「日本武道」と言うは易し。しかし先生のその覚悟がいかに大きなものであったかは、この挑戦を自らが「失敗」と称したその姿勢が何よりの証。己の示さんとする道を、敵に討ち勝ってなおこだわり続けるその姿は、かつて古の日本に存在した、清廉な誇り高き侍の姿そのものではないでしょうか。
 

↑収録後 ポカスカジャンのお三方との記念撮影

マギー審司さんと(おっきくなる耳いただきました)→

肖像権の都合でモザイクをかけています。
TVで放映された「あの場面」だけを見れば、いとも簡単に記録を達成してしまったようにも見えるでしょう。
しかしその背後には、立ち塞がる重圧との闘いを幾度となく重ねながら、加えて町井先生自身にもこの挑戦へ向けた並々ならぬ苦労と努力があったことを、どうかご記憶頂きたいのです。
 
私はこの度、師が偉大な記録を打ち立てようとしているその場に立ち会える機会を与えて頂いたことに、門弟としてこの上ない喜びを感じております。私はまだ入門後間もなく、他の経験豊かな兄弟子たちと比べればほんの未熟者です。そのような立場であるにも関わらず、この輝かしい価値のある機会に、私という存在がほんの僅かながらでも先生の力になれたのならば、これほど嬉しいことはございません。
 
龍星剣 猿田先生、青木さん、柔剣雷心会 永野先生、田中さん、芦村さん、力をお貸し下さり、本当にありがとうございました。兄弟子の佐藤さん、いろいろありましたが、今回ご一緒できたことは最高の思い出です。ありがとうございました。
そして町井先生。先生の弟子として、修心館の門弟として、この日の感動は決して忘れません。

先生の大きな大きな理想のもと興された、この修心流居合術兵法 修心館の門弟であることを後生誇りに思います。
この記録を目にされたすべての方に、どうか留めて頂きたく思います。この居合千本斬りへの挑戦は、単なる「名誉」や「話題」といった表面的な価値観で量れるものを得るための機会などではなく、町井勲という偉大な侍が日本武道の誇りをかけて臨んだ「真剣勝負」だったということを。
 
平成19年10月1日
修心館 北村 圭佑