12-1821
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波濤騎馬武者図鐔
無銘
-Mumei-

縦74.6ミリ 横67.95ミリ 切羽台厚3.85ミリ
重さ109.5グラム
江戸中期~後期 The middle to latter Edo period
附属 桐箱


波濤を越えて進む騎馬武者は、困難へ立ち向かう勇気と武人の気概を象徴し、軍記物の緊張感と水景の動勢を一つの画面で味わわせる画題であり、本品も荒波の中を進む武者の勇姿を主題として、宇治川先陣をはじめとする古典的な合戦譚を想起させながら、特定の人物や故事へ限定せず、見る者の想像に物語を委ねる余韻ある構成となっています。

木瓜形の鉄地の右下へ騎馬武者を量感豊かな高彫で表し、左方から下辺へ幾重もの波を大きく巡らせ、上部には風を受けて枝を伸ばす松樹を配した画面は、人物を片側へ寄せて広い余白を生かすことで武者の進む先に広がる水面と距離を感じさせ、静止した鐔の中へ波を蹴立てて前進する一瞬の緊張と勢いを巧みに封じ込めています。

武者の兜、吹返、錣、袖、草摺から馬具に至るまでを細やかに彫り分け、金、銀、素銅の色絵を要所へ施すことにより、落ち着いた鉄地の中から人物と馬を鮮やかに浮かび上がらせており、馬の眼や面繋、たてがみ、力強く踏み出す脚へ与えられた表情は、金色の飛沫を散らす足元の波と呼応して、甲冑の華やかさにとどまらず騎馬の重量感と水勢まで伝えます。さらに上方の松は赤銅の幹と枝を起伏豊かに表し、針葉や枝先へ添えた金色絵によって、武者の勇姿を寿ぐ常磐木の趣を画面へ加えています。

裏面は人物を置かず、左方に陸地を表し、その足元から下辺へ続く水景に金色の飛沫を点在させて、表の激しい場面を静かに受け継ぐ仕立てとなっており、鐔を返すたびに波間を進む騎馬武者の周囲へ奥行きある景色が広がります。鉄地の渋い色合い、立体感に富む人物彫刻、豊かな色金がよく調和し、拵へ掛ければ堂々たる存在感を示すとともに、独立した鑑賞品としても細部を見込む楽しみの尽きない、武勇と吉祥性を兼ね備えた魅力ある鐔です。