分類は 観賞用 目貫 特別保存刀装具鑑定書

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伯夷・叔斎図目貫
無銘(京金工)
-Mumei (Kyo Kinko)-

表目貫 横35.8ミリ 縦13.8ミリ
裏目貫 横35.6ミリ 縦14.2ミリ
重量17.0グラム
江戸前期 The early Edo period
附属 特別保存刀装具鑑定書、特製落込桐箱


京金工とは、刀装具の鑑定において、京都で制作された無銘の金工作品のうち、特定の作者や流派に帰属させず、京都系金工の作として極められるものに用いられる呼称です。京都では後藤家をはじめ多くの優れた金工が活動し、その長い伝統の中から洗練された意匠と精緻な彫技を備えた刀装具が生み出されました。現存する京金工極めの目貫にも、赤銅地を容彫として金色絵を施した作品などが確認され、色金を巧みに用いた華やかで緻密な作例が伝わっています。

本作は、中国古代に清廉と節義の士として名高い伯夷(はくい)・叔斉(しゅくせい)の兄弟を表した一対の目貫です。『史記』伯夷列伝によれば、二人は孤竹国の君主の子で、父の死後に互いに王位を譲り合って国を去り、のちに周の武王が殷を討つことを諫めました。周が天下を治めた後もその禄を受けることを潔しとせず、首陽山に隠れて薇を採って食し、ついには餓死したと伝えられます。その故事から後世、伯夷・叔斉は権勢や利得に屈することなく己の義を貫いた人物として尊ばれてきました。

本作最大の見どころは、何といっても金無垢の地金を惜しげなく用い、伯夷・叔斉の姿そのものを豊かな肉取りによる容彫で立体的に造形している点でしょう。二人合わせて17.0グラムという堂々たる重量を有し、人物の顔貌、髪、手足、幾重にも重なる衣文から腰に提げた籠に至るまで細やかに鏨を入れ、髪や衣の一部には赤銅等の色金を配することで、黄金色を基調としながらも引き締まった格調高い姿に仕上げています。

二人を同じ姿の繰り返しとして処理していない点にも、金工師の優れた造形感覚が表れています。一方は穏やかに立つ姿、もう一方は頬に手を添えて思索するような姿に表され、それぞれの顔貌や身体の動きにも変化を持たせています。正面から眺めた際の豊かな表情はもちろん、側面から見ることで際立つ厚みと肉取りにも見応えがあり、小さな目貫という限られた空間に人物像としての存在感を凝縮した、京金工の彫技を存分に味わえる一対です。

裏面には、一方を筒状の陰根、もう一方を柱状の陽根とする明確な陰陽根を備え、その周囲には花弁状の力金を丁寧に配しています。陰陽根は初期後藤家をはじめとする古い目貫に多く見られ、桃山時代以降も伝統的な形式として受け継がれた構造であり、本品に残る古風な裏行、量感豊かな容彫、色金を立体的に組み合わせた仕事には17世紀の京都金工に通じる趣が認められることから、制作年代は江戸前期と見るのが相応しく、表からは華麗な人物表現、裏からは古作らしい構造美を味わえる点も大きな魅力です。

金無垢17.0グラムという贅沢な素材、立体感豊かな容彫、色金を巧みに配した細密な仕事、そして節義を象徴する格調高い画題を併せ持ち、特製落込桐箱に収めて一対の小さな金工作品として鑑賞するにも相応しい逸品です。