014 火縄式銃砲

銘… 種子嶋住阿世知新五右衛門兼則
全長106.5p  銃身長:73.0p  口径 :1.8p
平成15年9月18日兵庫県登録
種子島家伝来品
澤田平著 名銃百選所載品


 うぶ出しで発見した大変貴重な士砲。製作されてから数百年の時を超え、現在なお実射可能な薩摩砲は、日本、いや、世界に於いても現在のところ、この銃ただ一挺のみである。
 今回、時代のあがる薩摩式軍用士砲が完全な形で発見されたことは、今日の古式銃砲研究史上、最大の発見といえるものであり、それだけでも大変なことであるが、更に驚くことは、地板には種子島家の家紋である三ツ鱗紋が随所にあしらわれ、長く種子島家に伝来していた名銃であったということである。どうりで保存状態が良いはずである。その後どういう経緯をたどってきたのか定かではないが、とあるコレクターの元に納まり、公開されることなく今日まで秘蔵とされてきた名銃の中の名銃である。この度縁あって当方でご紹介することになったが、これが古式銃の知識に乏しい骨董商や個人の元に渡っていたらと考えると、本銃と当方との数奇な巡り合わせに運命を感じずにはいられない。
 資料的にもどれだけ貴重な名銃かは、TV番組「開運 なんでも鑑定団」でおなじみの古式銃研究の大家、澤田平氏が執筆する「名銃百選」への掲載を自ら申し出てこられたことからもお解かり頂けよう。尚、この薩摩式士砲は、これまで現物こそ確認されなかったものの、その存在は古くから文献に登場していたようで、同氏の著書「日本の古銃」の中で上妻家伝来古銃に触れた一節の中にも『種子嶋住阿世知新五右衛門兼則作』と、ただその名だけが記されている。
 種子嶋住阿世知新五右衛門兼則なる鉄砲鍛治についての詳しい資料はないものの、「兼」の字を冠するところから、末関系の刀工を種子島に招き、鉄砲を鍛造させていたものと推測され、銘の切り方はよく見る鉄砲鍛治の物とは異なり、まさに刀の中心に切られるのと同じ、堂々たる太鏨による力強い銘振りで、今尚鏨枕が鋭く立ち残っている。

※写真をクリックして頂くと拡大写真をご覧になれます。
↑飾り気のない薩摩砲には珍しい二本の玉縁。種子島家の命によって入念に製作されたことが伺える。
↑火蓋に見られる種子島家の『三ツ鱗紋』
↑刀鍛治ならではの太鏨による力強い銘。鏨枕が鋭く立ち残った状態で現在まで伝わってきたことは、まさに奇跡である。
↑地板に見られる種子島家の『三ツ鱗紋』。地板の縁は縄目模様で銀覆輪が施されており、大名家による特注ならではの非常に珍しい作風である。
↑引き金の座板にも種子島家の『三ツ鱗紋』がほどこされている。
↑火蓋に見られる『三ツ鱗紋』 数枚上の写真よりこちらの方が確認しやすいかと。
↑本銃が紹介・発表された、澤田平氏著の名銃百選。